私がした判決・決定のうち判例雑誌で公刊されているものの一部を紹介します。
1. 札幌簡易裁判所平成10(1998)年12月4日決定(判例タイムズ1039号267頁)
被告である貸金業者に対して,原告との金銭消費貸借契約の当初からの契約年月日,貸付金額,受領金額などを記載した帳簿の提出を命じました。貸金業法施行規則上の保存期間(3年間)が経過しても裁判所に対する提出義務が消滅するわけではないこと,被告が文書を識別できる程度の特定はなされていることなどが理由です。
被告が貸金業法上の要件具備を立証したいのであれば,少なくとも不当利得に基づく返還請求権が時効消滅するまでは(10年間)帳簿を保存すべきであり,もし廃棄したのであればその不利益は被告が甘受すべきです。 |
2. 札幌簡易裁判所平成10(1998)年12月22日判決(判例タイムズ1040号211頁)
債権の消滅時効が完成した後,債務者が債務の承認をした場合,その後時効を援用することは信義則に反して許されないという最高裁の大法廷判決があります(昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)。この判例を悪用して,貸金業者が債務者に一部だけでも支払えば残額は免除するなどと甘言を弄して一部弁済をさせた後,手のひらを返したように全額を請求し,債務者が時効を援用しようとすると援用権の喪失を主張するというケースが散見されていました。
このような場合は,債権者の主張こそが信義則違反であるとした判決です。 |
3. 大阪地方裁判所平成12(2000)年7月18日判決(判例タイムズ1044号157頁)
交通事故で,刑事事件で先に有罪判決が出ていたのですが,警察の捜査がずさんで(被害者の着衣の鑑識はもちろん事故車の写真すらない)証拠が非常に希薄で事故が起きたのかどうか認定できなかった事案です。本来,「疑わしきは被告人の利益に」という原則が働くはずの刑事裁判で,かなり不合理な警官の証言だけで有罪判決が出されているということに驚きました。
刑事(少年)事件で犯罪事実ありとされた後,民事事件で詳細な事実認定をして犯罪事実を否定した草加事件(最高裁平成12年2月7日判決)を思い出しました。
裁判報道記事
2000年7月19日毎日新聞(掲載許諾取得済み)
同日付朝日新聞,産経新聞にも掲載 |
4.大阪地方裁判所平成12(2000)年11月21日判決(判例タイムズ1059号166頁)
上司と部下が一緒に飲酒した後,部下が上司を家に送っていくために運転中に,赤信号を無視して交差点に進入し,原動機付き自転車に乗った高校生と衝突し,逃走したという事件です。運転者していた部下だけではなく,同乗していた上司も被告として訴えられていました。上司がタクシー代も持たずに,部下の車で飲みに行っており,帰りは飲酒運転で送らせることが前提となっていたと考えられること,帰途運転中に部下が「しんどい」と言っているのに運転を続けさせたことなどから,上司にも不法行為責任を認めました。
なお,逸失利益を高卒労働者平均賃金で算出した点が不服とのことで控訴がなされました。今思えば大卒平均を用いた方がよかったように思います。
上司は民事判決後,刑事でも再捜査がなされ,書類送検されました。
裁判報道記事
2000年12月13日毎日新聞,12月14日朝日新聞に掲載
書類送検について2001年5月24日朝日新聞に掲載 |